三休橋筋の南端近く、安堂寺橋通を東に入ってすぐに、背の高い建物に囲まれながらも存在感を放つ、2階建ての「原田産業株式会社」の大阪本社ビルがあります。
原田暁さんの曾祖父・原田亀太郎さんが「原田商事株式会社」として1923(大正12)年に創業し、板ガラスの輸入にはじまり、現在では造船やインフラ、建設、エレクトロニクス、医療など、多角的な事業をグローバルに展開する貿易総合商社として、2023年に創業100周年を迎えました。
本社ビルは1928(昭和3)年に竣工し、現在も大切に使い続けられています。4代目社長の原田暁さんは、南船場から世界に向けて、さらなる事業展開に挑戦し続けています。

「三休橋筋との出会い」
ビルのオーナーとして

大学では建築を学び、建築関係の会社に勤めていました。社を継ぐために入社したのは2003年。東京支店長を経て、創業90周年の2013年に社長に就任し、現在に至ります。学生時代は新しい建築に興味がありましたが、ここで長く仕事をするようになって、歴史を積み重ねてきたものや、時代に耐えうる建築の良さを再認識しました。
創業者である私の曾祖父・原田亀太郎は、創業と同じ年(1923年)に起こった関東大震災の被害と、昭和の金融恐慌で銀行が倒産していく状況を目の当たりにしました。地震や火災に強く、資産を安全に保管できる頑丈な金庫を備えた社屋の必要性を感じ、堅牢な鉄筋コンクリート造りの本社ビルが1928年に建てられました。
竣工から現在に至るまで、私たちはこのビルを大切に使い続けています。年末の仕事納めの日には社員総出で大掃除をして、社員たちも愛着を感じてくれているようです。しかし、照明や冷暖房、通信、電気などの設備関係は時代に対応していかなければなりません。手を加える際には、主役がより引き立つように色を合わせたり隠したりするなど、目立たせない工夫にはこだわっています。前職では建物を建てる側でしたが、今はオーナーという別の立場で建築に携われるのは良いことだと思います。

1階執務室の天井。ミラー仕上げの照明器具が空間に溶け込みつつ、上方の照明により天井や梁の意匠を浮かび上がらせている。

「本社ビルの魅力」
オフィスビルとして、大切に使い続ける

弊社は創業から15年弱で東京に支店を持ち、二拠点で事業を行ってきました。しかし、東京に本社機能を移す考えはなかったようで、一貫してこのビルに本社を置いています。創業者たちは、大阪企業というこだわりや船場商人の誇りを持っていたのだと思います。バブル期には社屋の用途を変更する話もあったようですが、専門家の方からもご評価いただいて、私たち自身もその価値を改めて知ることになりました。
このビルの魅力を広く知ってもらいたいとは思っていたのですが、オフィスビルのため、業務中にお見せすることができず心苦しく感じていました。そんなときに、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(通称・イケフェス)」にお声がけをいただき、第2回目の2015年より、特別公開を毎年行っています。手伝ってくれた社員は、このビルがどう評価されているかを体感してくれているようです。特別公開には、通勤などで前を通られる方や、向かいのビルに勤められている方もいらっしゃいました。まちのなかの存在として認識されて、興味をもっていただいてうれしいです。

「時代の移り変わりとともに」
重要文化財で記念式典を

2023年3月には創業100周年を迎え、記念式典を大阪市中央公会堂で行いました。三休橋筋の北の突き当りにある大阪市中央公会堂は、国の重要文化財に指定され、これからも長く保存されていくことでしょう。記念すべき100周年を迎えるにあたり、私たちの会社も長く続けていけるよう、みんなで一致団結しようという思いを込めて、この場所で行うことにしました。
大阪は、まちに対して思い入れの強い方が歴代にわたって続いていると思います。大阪市中央公会堂の建築の際に多額の寄付をした株仲介人の岩本栄之助さんもそのような方でした。プライドをもってまちを良くしていきたいという人びとの思いを、大阪で長く働くうちに感じるようになりました。イケフェスでもビルオーナーさんが自らお話されたりして、まちに対する愛を感じます。私も刺激を受けて、このまちがますます好きになりました。

「三休橋筋の未来」
南船場のランドマークに

三休橋筋の北側は電線が地中化されてすっきりしています。ガス燈もおしゃれで雰囲気が良いですね。大阪農林会館ビルと弊社を含むこの辺りが整備されたら、南船場のランドマークになるのではないかと思います。イケフェスも最近は少しずつ南船場にも人が来るようになってきました。ご縁があり、2023年には大阪農林会館との初めてのコラボイベントが実現しました。昭和初期のほぼ同時期に建てられた、両ビルの階段や天井の梁などのデザインや、金庫などのお互いの共通点を比較する新たな企画も行いました。
ビジネスのまちとしての発展はもちろん大事ですが、新しく居住される方も増えています。古いものを大事にしつつ新しいものを取り入れる、大阪らしい、大阪ならではの個性あるまちとして、北の大阪市中央公会堂から南船場まで連続して楽しめたらいいと思います。100年近くお世話になっている、このまちに貢献していけるような企画があれば協力したいと思っています。

原田社長が三休橋筋周辺でお気に入りの場所という、大阪写真会館の1階に出店しているオリジナル家具とインテリアのお店「TIME & STYLE OSAKA」にて。

「原田産業株式会社」の公式サイトはこちら(https://www.haradacorp.co.jp/