「三休橋筋」沿いにあり、船場の街の真ん中辺りに位置する「綿業会館」は、社交倶楽部「社団法人 日本綿業倶楽部」(1928年設立)の建物として、昭和6年(1931年)に竣工されました。日本綿業倶楽部は、大阪に5つある大正〜昭和初期に設立された会員制の社交倶楽部のひとつで、繊維関係をはじめとした団体や個人の情報交換や相互交流と、社会的、文化的活動に関する事業を通じて社会各界の発展に寄与することを目的とした活動を行っています。
槙島昭彦さんは、日本綿業倶楽部の事務局長として2014年に着任し、綿業会館の円滑な運営、維持・管理に携わるほか、倶楽部の会員の方々との交流、時には一般見学会の案内役も務めています。

「三休橋筋との出会い」
辞令はクリスマス・イブに

1985年に大学を卒業し、大阪に本社のある東洋紡績株式会社(現 東洋紡株式会社)への就職を機に、横浜から大阪にやってきました。会社では衣料関係の営業と、海外での合成繊維の原糸の生産などを担当したのち、2012年に公益社団法人 関西経済連合会の国際部に出向となり、事務局として海外視察団の事務手続きや現地へのアテンドなどを担当しました。2年間の出向の残り半年というところで、突然、翌年2月から日本綿業倶楽部の事務局長として着任することが告げられました。2013年のクリスマスイブのことです。

綿業会館は社交倶楽部の施設ということもあって、それまでほとんど関わりがなく、本館の内部の建築のすばらしさも、着任してはじめて知ったようなものです。最近は、大阪の紡績業の歴史を伝えるために、入社式や内定式の際に見学会を行う会社がいくつかあり、若い世代の方々にも知っていただく機会が増えてきました。

綿業会館は、2003年に重要文化財に指定され、日本綿業倶楽部は、私が着任する少し前の2012年に一般社団法人に移行しました。このころから、近隣や一般の方々にも少しでも当館を知っていただくために、情報の公開や一般の方対象の館内見学会、ウエディングなどの企画が行われるようになり、徐々に外部に開かれていきました。

「三休橋筋の魅力」
人々に感じる、船場への深い“愛”

会員の方々と接していて感じるのは、この船場地区に対する思い入れの強さですね。地元で生まれ育った方も多く、綿業会館についても「小さいころ祖父母に『あんたが入るところとちゃう』って言われたんや」と思い出を語ってくださる方もおられます。そういった「船場“愛”」は、三休橋筋商業協同組合をはじめとする、地域振興やまちづくりの団体のみなさんも同様にお持ちだと思います。ありがたいことに、綿業会館を会合・セミナー等の会場として企画を考えたいとお声がけいただくことも少なくありません。

三休橋筋は、多くの名建築が点在していることも大きな魅力の一つです。「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス大阪)」は、キックオフミーティングが当館でおこなわれましたし、初年(2013年)から続いている見学会は、昨年(2022年)に3年ぶりに現地開催ができました。テレビドラマ「名建築で昼食を 大阪編」(2022年放映)で取り上げていただいたときは、私も案内役として出演の機会をいただきました。ドラマに登場した昼食付きの特別見学会を企画したところ、6000通もの応募があり、その反響の大きさに驚かされました。当館をはじめ、かつての「古き良き」時代を伝える多くの建物がこの三休橋筋界わいに集まっていて、船場という街を動かしていくひとつのパワーになっているのを感じます。

「三休橋筋界わいの移り変わり」
街が変わり、人も変わる

三休橋筋は、大阪市のプロムナード計画により、電線の地中化や歩道の拡張、ガス燈の設置など、さまざまな整備がおこなわれました。界わいにはタワーマンションも増え、居住人口も5、6年前に比べると数倍になったそうです。街ではペットのワンちゃんを連れて散歩している人や、自転車にお子さんを乗せたお母さんの姿も見かけるようになり、以前よりも人が増えているのを実感します。一般見学会にも、近くのマンションにお住まいの方がいらっしゃったことがあります。こういった新しくお住まいの方々とも交流できるイベントが、この三休橋筋を利用してできれば、船場の街の活性化につながるのではないでしょうか。

「三休橋筋の未来」
100年という節目に向けて

2023年で日本綿業倶楽部が設立されて95年、綿業会館の竣工が92年になり、どちらも100周年という大きな節目が近づいてきています。この周年事業をどのように執り行うかが、直近の大きな課題です。かつて、繊維産業を中心として栄えた「大大阪時代」、「東洋のマンチェスター」と呼ばれた大阪を、会員制倶楽部ではありますが、会員の皆様のご理解もいただきながら、関西圏はもとより全国の皆様にもより一層知っていただけるよう努めていくことも、大きな使命のひとつと感じています。

御堂筋と堺筋に挟まれた三休橋筋は、船場地区のほぼ中央に位置しているといえるでしょう。この筋を中心にイベントを行い、三休橋筋の北の突き当りにある大阪中央公会堂でも何かをやっているような、地域全体が盛り上がるお祭りができれば面白いのではないかと思います。もちろん、当館もお力添えできればと考えております。

「日本綿業倶楽部」の公式サイトはこちら。館内見学についてはこちら