おしゃれな若者が集まるまち、南船場。その中でも、特にスタイリッシュな人がいつか出店してみたいと憧れるのが「大阪農林会館ビル」です。1930(昭和5)年、三菱商事大阪支店として建てられたこのビルは、1949(昭和24)年に農林水産省のOBが設立した株式会社大阪農林会館に買い取られ、戦後の食料統制を担いました。その後は不動産業の会社が運営するようになり、テナントビルへと変化していきました。現在では、高級家具やアパレル店、ヘアサロンなどが入居する、ハイセンスなレトロビルとなっています。
豊本尚子さんは、大阪農林会館の営業事務として勤務するうちに、このビルに魅せられていきました。建築当初からの歴史を掘り起こし、SNSに加え、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」(通称:イケフェス)への参加プログラムの企画運営など、ご自身も楽しみながら、さらなる魅力発信にその手腕を振るっています。

「三休橋筋との出会い」
どんどん好きになっていく

大阪農林会館ビルが私たちコーニッシュグループの傘下となったのは、2010年のことです。以前は、1階には24時間営業のスーパーが入居し、エントランスに自動販売機が置かれるなど雑然とした雰囲気で、建物自体の価値はそれほど意識されていなかったようです。2000年前後に南船場が人気スポットとしてブームになったあたりから、スタイリッシュなショップが集まるようになりました。それからは、この建物がもつ歴史や、オリジナルの良さを活かした使い方に変化していきました。
私は2017年にこのビルに赴任しました。「古いビルだなぁ」というのが、最初の印象です。それなのに、ここに出店したいという人が多いことが気になって、私自身もこのビルに興味をもつようになりました。赴任して2年目にすごいものを発見したんです。それは、建設当初のビルの図面。廃棄されるはずだった段ボールのなかに入っていました。玄関ホールの階段手すりの図面は、実寸大で細かな装飾まで克明に描かれていて、とても感動しました。この発見がきっかけになって、このビルのことをもっと知りたいと思うようになりました。

「地域に愛されるビルの魅力」
変わらずここに建っている

時代とともにオーナーが変わり、使い方も変わっても、このビルは変わらず建ち続けてきました。そのこと自体が、まちの魅力にもつながっていると思います。私は兵庫県出身で、このまちのことはあまり知りませんでした。建築を勉強したこともありません。
「知らないなら知っている人に教えてもらおう!」と、古くからいらっしゃる商店の方や南船場会館にお話を聞きに行きました。他のビルのガイドツアーにも、たくさん参加しました。飛び込んでみたら、みなさんすごくウェルカムなんです。写真や住宅地図などをたくさん提供していただき、貴重な資料として活用させていただいています。逆に、みなさんが古い地図や写真を囲んで、昔の話がどんどん広がるような場面もあり、このビルがあることをきっかけとして、地域の方々の交流のきっかけにもなっているんです。そして私の小ネタがどんどん増えていっています(笑)。

「歴史の語り部として」
電柱すら愛おしい!

地元の方々に加えて、他のビルのオーナーさんにも聞いたり、建築の先生に質問したり。図書館にも通って資料を集めました。芦池小学校の記念誌が素晴らしかったです。昔のこの周辺の様子がよくわかるのですが、こんな資料が小学校の記念誌として残っているのは、稀だと思います。
古い写真を見ていると、大阪農林会館ビルの横に立つ電柱の位置が、建て替えられているはずなのに同じなんです。変わらない歴史を感じて、電柱すら愛おしく感じました(笑)。それからは、外観の写真は同じ場所から撮るようになりました。このビルは2024年で94歳を迎えます。ずっとこの場所にあってほしいですが、もし、いつか形を変えることがあったとしても、ここを好きな人たちの記憶の中から消えることはないと思うんです。このビルが人をつなげてくれていると感じています。

「三休橋筋の未来」
一本の道をつなぐ仕掛けがあれば

2023年のイケフェスでは、原田産業さんとコラボ企画をさせていただき、ふたつの建築を巡るスペシャルツアーを実施しました。同じ時期(2021年)に、それぞれの建物が登録有形文化財指定を受けたことがきっかけです。これまで近くにありながら交流はありませんでしたが、原田暁代表からお声がけいただき、実現しました。お互いを知ることができましたし、こういうつながりがもっと広がっていけばいいなぁと思います。

三休橋筋をぶらぶら歩いていると、南船場には原田産業さんと大阪農林会館ビルがあって、北に行けば綿業会館があって、北船場にはレトロビルも集まっている。この一本の道をつなぐような仕掛けがあればいいなと思います。ただ、それぞれに業種が違い、建物の用途も違うので、なかなか簡単にはいかないのかなとも思います。大阪農林会館ビルは、ショップを訪ねて自由にお入りいただけますので、ぜひ多くの方に来ていただき、この建物のことを知っていただきたいと思います。これからも大好きなこのビルの魅力を伝えていきます。

大阪農林会館ビルの1階エントランス

・大阪農林会館ビルの公式サイトはこちら https://www.osaka-norin.com/
・インスタグラムはこちら https://www.instagram.com/norinkaikan/