「増見哲株式会社」は、増見喜一朗さんの祖父・増見鉄男さんが昭和14年(1939年)に三休橋筋で創業。本来なら「増見鉄」となるはずですが、それでは繊維関係の糸偏の会社ではなく、金属関係の金偏の会社に思われてしまうことから、「哲」の字が採用されたそうです。ファスナー、ボタンなど服飾資材の卸問屋としてスタートし、最近ではおしゃれ割烹着のオリジナルブランド「kapok」を立ち上げ、さらに注目を集めるようになりました。また2022年には、廃校となっていた淡路島にある鉄男さんの母校の小学校跡地と校舎を購入、瀬戸内海を望むテラス付きショップ・カフェなど、地域の交流施設の開業に向けて動き出しています。
三休橋筋の本社近くにある「kapok」のショップ、その隣にある手芸用品を扱う店舗「999+1(スリーナインプラスワン)」はいずれもおしゃれな店づくりで、一般の消費者や観光客を中心に人気を集め、街の活性化にも一役買っています。

「三休橋筋との出会い」
9が3つでサンキュー、それは祖父から受け継いだマーク

私自身は神戸生まれですが、会社がある三休橋筋にはずっと愛着を持ってきました。大学を卒業してYKKファスナーの販売会社に勤めた後、2004年に増見哲に入社し、2011年に三代目社長となってからは、ますますその思いは強くなりました。
店の名前「999+1」や、会社のロゴに使っている「999」の文字列は、祖父が考案したのですが、9が3つでサンキューになっています。三休橋筋にかけて考えたんですね。名刺交換などの際に、「9が3つで三休橋です」という説明をしたら、「ベタやな」とは言われますけど、笑いがとれます(笑)。もちろん「おおきに=thank you」にもかけてるし、+1(プラスワン)で1000になり、豊臣秀吉の千成ひょうたんになるんだという話をすると、大阪らしいなと言われますね(笑)。東京だと、それが商談のきっかけになったりもします。

「三休橋筋の魅力」
早朝、三休橋筋を散歩しながら通勤しています

三休橋筋は朝がいいですね。私は毎朝、社員よりも早く7時半に出社しているんですが、大阪駅から博労町にある会社まで歩いてきます。梅田から中之島へ、大阪市中央公会堂の横を通って、栴檀木橋をわたって、三休橋筋を北から南へまっすぐ歩いてきます。散歩というかウオーキングが日課ですね。
早朝の大阪の街は、空気がきれいでとても気持ちがいいんですよ。特に中之島から三休橋筋に入るあたりは、歩道も整備されていて歩きやすいですし。栴檀の木とガス灯が並び、立派な建物もあって、大大阪時代を彷彿させるような雰囲気があります。特に緑もきれいな夏の朝は最高です。
けれど、中央大通を過ぎると景色がガラッと変わってしまう。私はそこでスイッチが切り替わって、仕事モードになるんですが……。中央大通りから南へ続く三休橋筋は、街路樹もなければ公園もない。北側がいい雰囲気なだけに、もうちょっとなんとかできないかと思います。

「三休橋筋界わいの移り変わり」
最近、周囲におしゃれな店が増えてきました

もともと船場は、東洋一の問屋街を目指すという目標があって、大変活気のある街でした。私が子どもだった時分も、まだまだ物流が多く、荷物の積み下ろしをする車がたくさん止まっていて道路が常に渋滞していました。しかし、繊維業の不振でだんだんと車が減り、人が減り、渋滞が解消されていきました。
決定的に人が減ったと感じたのは、2008年のリーマンショック後ですね。繊維業で働く人が減り、その代わりにじわじわと外国人観光客が増えてきました。会社がなくなった跡地にホテルが建ち、コンビニエンスストアができ、街の様子はがらりと変化しました。ところが、コロナ禍で観光客は一気に激減して、その後、目に見えて増えてきたのは高層マンションです。
最近は、活気が少しですが戻りつつあります。三休橋筋に立ち上げた店舗「999+1」はおかげさまで集客も好調です。周囲にもおしゃれな店が増えてきたなと感じますね。この勢いが続いていけばいいですね。

「これからの三休橋筋」
理想への一歩として会社の玄関先に緑を植えました

この辺りが、散歩しながら買い物が楽しめる街になればいいなと思っています。毎朝歩いている中之島から中央大通までの三休橋筋の雰囲気を、その南側のエリアにも延長できたら、もっと街が良くなるのではないかと感じています。
三休橋筋は、御堂筋と堺筋のちょうど真ん中を南北に貫いている道です。地下鉄御堂筋線の駅と堺筋線の駅のどちらからも近くて便利。大阪中心部のとても恵まれた立地ですから、まだまだ可能性があるはずです。
たとえば、もっと緑があれば雰囲気も和やかになり、ハイセンスな小売店や飲食店なども集まってきて、つい散歩したくなるような街に生まれ変わっていくのではないでしょうか。ヨーロッパなど外国の都市にはそんなふうに街歩きをしながらショッピングが楽しめるところも多いですよね。
実は、理想の方向へ一歩踏み出そうと、先日、会社の玄関先にユッカやアガペなどを植えました。ささやかな緑ですが、自分でできることから始めようと。少しでも街の風景が変わっていくきっかけになればうれしいですね。

増見哲の玄関先。「増見哲」の公式サイトはこちら